1. 原状回復のルール
「原状回復」とは、退去時に部屋を入居時の状態に戻すことですが、新品の状態に戻す義務はありません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、以下のように定義されています。
経年劣化と通常損耗
以下は大家(貸主)が負担すべきもので、入居者に請求することはできません。
- 日焼けによる壁紙・フローリングの変色
- 画鋲やピンの小さな穴(ポスター程度)
- 家具の設置による床のへこみ
- テレビ・冷蔵庫の背面の電気焼け(黒ずみ)
- エアコン設置によるビス穴
- 網戸の張り替え(経年劣化)
2. 大家負担と入居者負担の境界線
| 損耗の種類 | 大家負担 | 入居者負担 |
|---|---|---|
| 壁の傷 | 画鋲・ピンの穴 | ネジ穴・くぎ穴、大きな穴 |
| 壁紙の汚れ | 日焼けによる変色 | タバコのヤニ汚れ |
| フローリング | 家具の設置跡・日焼け | 物を落とした傷、ペットの引っかき傷 |
| カーペット | 家具跡・日焼け | 飲み物をこぼしたシミ、カビ |
| 水回り | 経年による蛇口の劣化 | 掃除を怠ったカビ・水垢 |
| 鍵 | 経年劣化による交換 | 紛失による交換 |
経過年数による減額
入居者に責任がある損耗でも、設備の残存価値に応じて減額されます。例えば壁紙(クロス)の耐用年数は6年です。6年以上住んでいれば、壁紙の残存価値は1円となり、タバコのヤニ汚れがあっても入居者の負担はほぼゼロになります。
| 設備 | 耐用年数 | 6年居住時の入居者負担割合 |
|---|---|---|
| 壁紙(クロス) | 6年 | 約1%(残存価値1円) |
| カーペット | 6年 | 約1% |
| クッションフロア | 6年 | 約1% |
| 畳(表替え) | 経過年数は考慮しない | 損傷の程度による |
| フローリング | 経過年数は考慮しない | 損傷の程度による |
3. 退去費用の相場
| 間取り | 退去費用の相場 | 敷金で収まる目安 |
|---|---|---|
| ワンルーム・1K | 20,000〜50,000円 | 敷金1ヶ月で十分 |
| 1LDK・2DK | 30,000〜80,000円 | 敷金1ヶ月でほぼ収まる |
| 2LDK・3DK | 50,000〜120,000円 | 状態による |
| 3LDK以上 | 70,000〜150,000円 | 追加請求の可能性あり |
上記はあくまで目安です。普通に生活していた場合の相場で、主にクリーニング費用が中心です。大きな傷や汚れがなければ、敷金の範囲内で収まることがほとんどです。
ハウスクリーニング費用の相場
退去時のクリーニング費用は、多くの賃貸契約で入居者負担とされています(特約として契約書に明記されている場合)。
| 間取り | クリーニング費用 |
|---|---|
| ワンルーム・1K | 15,000〜30,000円 |
| 1LDK・2DK | 25,000〜45,000円 |
| 2LDK・3DK | 40,000〜70,000円 |
| 3LDK以上 | 60,000〜90,000円 |
4. 敷金の返還ルール
敷金は退去時に返還されるのが原則です。2020年4月施行の改正民法(第622条の2)で、以下のルールが明文化されました。
- 賃貸借が終了し、物件を返還したとき、敷金は返還される
- 通常損耗・経年劣化は敷金から差し引けない
- 入居者の責任による損耗のみ、敷金から差し引ける
敷金が返還されるまでの期間
一般的に、退去後1〜2ヶ月で返還されます。契約書に返還時期が記載されていない場合、退去後の合理的な期間内(通常1ヶ月程度)に返還するのが判例上の原則です。
5. ぼったくり請求の見分け方と対処法
こんな請求は要注意
- 壁紙の全面張り替え:一部の汚れなのに部屋全体の壁紙代を請求される → 汚れた部分のみの負担が原則
- 経年劣化の請求:6年以上住んでいるのに壁紙の全額を請求される → 残存価値で計算すべき
- 高額なクリーニング費用:相場の2倍以上の請求 → 契約書の特約を確認
- 入居前からの傷の請求:入居時からあった傷や汚れを請求される → 入居時の写真が証拠になる
- 鍵交換費用:紛失していないのに鍵交換代を請求される → 入居者に義務はない
不当請求への対処ステップ
ステップ1:見積書の内訳を確認する
退去費用の見積書が届いたら、まず項目ごとの内訳を確認します。「一式」とだけ書かれている場合は、詳細な内訳を求めましょう。
ステップ2:ガイドラインと照らし合わせる
国土交通省のガイドラインに照らし、大家負担と入居者負担を整理します。通常損耗や経年劣化に該当する項目がないか確認します。
ステップ3:管理会社・大家に交渉する
不当と思われる項目について、ガイドラインを根拠に書面で交渉します。電話だけでなく、メールや内容証明郵便で記録を残しましょう。
ステップ4:相談窓口を利用する
交渉が難航する場合は、次の章で紹介する相談窓口を利用しましょう。
6. 退去前にやるべきこと
- 契約書の原状回復条項・特約を再確認
- 入居時の写真がないか確認(スマホの古い写真フォルダ等)
- 部屋の現状を写真・動画で記録(日付入り)
- できる範囲の掃除をする(水回り、換気扇、コンロ周り)
- 壁の穴を補修する(小さな穴は補修パテで埋められる)
- 退去立ち会いの日時を管理会社と調整
- 退去立ち会い時、その場でサインを急かされても「持ち帰って確認します」と伝える
退去立ち会いのポイント
退去の立ち会いは、管理会社と一緒に部屋の状態を確認する重要な機会です。
- 指摘された箇所をその場で写真に撮る
- 入居時からあった傷はその場で伝える
- 見積書にはその場でサインしない(「確認してから返事します」でOK)
- 立ち会いには可能であればもう一人同行してもらう
7. 困ったときの相談先
| 相談先 | 電話番号 | 特徴 |
|---|---|---|
| 消費者ホットライン | 188 | 最寄りの消費生活センターに繋がる |
| 国民生活センター | 03-3446-1623 | 退去費用トラブルの相談実績多数 |
| 法テラス | 0570-078374 | 無料の法律相談。弁護士の紹介も |
| 各都道府県の不動産相談窓口 | 各都道府県による | 宅建業法に基づく指導ができる |
少額(60万円以下)の退去費用トラブルなら、少額訴訟も有効な手段です。弁護士なしで手続きでき、原則1回の審理で判決が出ます。費用は数千円程度です。
※ 本記事の情報は2026年9月時点のものです。手続きの詳細は各事業者・行政機関の公式サイトでご確認ください。