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1. 原状回復のルール
「原状回復」は、借りたときの状態にそのまま戻すことではありません。民法第621条でも、通常の使用でできた損耗や経年変化は、借りた人が元に戻す対象から除かれています。国土交通省のガイドラインでは、次のように定義しています。
経年劣化と通常損耗
ガイドラインで大家(貸主)の負担とするのが妥当とされているものの例です。契約書に特約がある場合は、その内容も確認しましょう。
- 日焼けによる壁紙・フローリングの変色
- 画鋲やピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)
- 家具の設置による床やカーペットのへこみ・設置跡
- テレビ・冷蔵庫の背面の電気焼け(黒ずみ)
- 借りた人が持ち込んだエアコンの設置による壁のビス穴・跡
- 網戸の張替え(破損はしていないが、次の入居者のために行うもの)
- 鍵の取替え(破損・紛失がない場合)
2. 大家負担と入居者負担の境界線
| 損耗の種類 | 大家負担 | 入居者負担 |
|---|---|---|
| 壁の傷 | 画鋲・ピンの穴 | ネジ穴・くぎ穴、大きな穴 |
| 壁紙の汚れ | 日焼けによる変色 | タバコのヤニ汚れ |
| フローリング | 家具の設置跡・日焼け | 物を落とした傷、ペットの引っかき傷 |
| カーペット | 家具跡・日焼け | 飲み物をこぼしたシミ、カビ |
| 水回り | 経年による蛇口の劣化 | 掃除を怠ったカビ・水垢 |
| 鍵 | 破損・紛失がない場合の取替え | 紛失や不適切な使い方による交換 |
経過年数による減額
入居者に責任がある損耗でも、設備の残存価値に応じて減額されます。例えば壁紙(クロス)の耐用年数は6年です。ガイドラインでは、6年で残存価値が1円になるように、住んだ年数に応じて入居者の負担を減らす考え方を示しています。ただし、耐用年数を過ぎていても、落書きなどわざと、または不注意で傷つけた場合は、元に戻すための工事費などを負担することがあると注意しています。
| 設備 | 耐用年数 | 6年住んだとき |
|---|---|---|
| 壁紙(クロス) | 6年 | 残存価値1円(負担は大きく減る) |
| カーペット | 6年 | 残存価値1円(負担は大きく減る) |
| クッションフロア | 6年 | 残存価値1円(負担は大きく減る) |
| 畳表 | 消耗品の性格が強いので、経過年数は考慮しない | 損傷の程度による |
| フローリング | 部分補修の場合、経過年数は考慮しない | 損傷の程度による |
3. 退去費用が決まるしくみ
退去費用は、部屋の広さで決まる「相場」があるわけではありません。主に次の2つの合計で決まります。
| 費用 | 決まり方 |
|---|---|
| 入居者の責任による傷や汚れの修理費 | ガイドラインでは、傷をつけた部分の修理が基本。壁紙は㎡単位が望ましく、傷つけた箇所を含む一面分までは入居者の負担としてもやむをえないとされている。住んだ年数に応じて負担が減るものもある |
| ハウスクリーニング代など | 契約書の特約で、入居者の負担と決められている場合に払う。金額が特約に書かれていることもある |
クリーニング代が「1㎡あたり○円」のように契約で決まっている物件もあるので、入居するときに契約書の特約を確認しておきましょう。ガイドラインのQ&Aでは、クリーニング特約が有効かどうかは、負担する内容・範囲が示されているか、説明があったか、費用が妥当かなどから判断されるとしています。入居時の費用と退去時の費用の関係は「賃貸の初期費用を安くする方法」でも解説しています。
4. 敷金の返還ルール
2020年4月に施行された改正民法で、敷金のルールが条文になりました。
- 賃貸借が終わって部屋を返したときは、敷金から未払いの家賃など借りた人の債務を差し引いた残りを返す(第622条の2)
- 通常の使用でできた損耗や経年変化は、借りた人が元に戻す対象ではない(第621条)
敷金が返還されるまでの期間
返還の時期は契約書で決められていることが多いので、退去前に確認しておきましょう。
5. 納得できない請求の確かめ方と対処法
よく確かめたい請求
- 壁紙の全面張り替え:一部の汚れなのに部屋全体の壁紙代を請求される → ガイドラインでは、㎡単位が望ましく、傷つけた箇所を含む一面分までが目安(タバコで部屋全体が変色した場合などを除く)
- 経年劣化の請求:長く住んでいるのに壁紙の全額を請求される → 住んだ年数に応じて負担が減る考え方がある
- クリーニング費用:契約書に特約がないのに請求される、特約の金額と違う → 契約書の特約を確認
- 入居前からの傷の請求:入居時からあった傷や汚れを請求される → 入居時の写真が証拠になる
- 鍵交換費用:紛失していないのに鍵交換代を請求される → ガイドラインでは、破損・紛失がない場合の鍵の取替えは大家の負担とするのが妥当とされている(特約があるかも確認)
不当請求への対処ステップ
ステップ1:見積書の内訳を確認する
退去費用の見積書が届いたら、まず項目ごとの内訳を確認します。「一式」とだけ書かれている場合は、内訳を求めましょう。国民生活センターも、納得できない請求をされた場合は、貸主側に費用の明細などの説明を求めて話し合うよう案内しています。
ステップ2:ガイドラインと照らし合わせる
国土交通省のガイドラインに照らし、大家負担と入居者負担を整理します。通常損耗や経年劣化に該当する項目がないか確認します。
ステップ3:管理会社・大家に交渉する
納得できない項目について、ガイドラインの考え方を示しながら話し合います。やりとりは、電話だけでなくメールや書面でも残しておくと、あとで確認しやすくなります。
ステップ4:相談窓口を利用する
交渉が難航する場合は、次の章で紹介する相談窓口を利用しましょう。
6. 退去前にやるべきこと
- 契約書の原状回復条項・特約を再確認
- 入居時の写真がないか確認(スマホの古い写真フォルダ等)
- 部屋の現状を写真・動画で記録(日付入り)
- ガイドラインの「通常の清掃」をする(ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇やレンジ回りの油汚れ)
- くぎ穴やネジ穴など気になる傷は、自分で直す前に管理会社に相談する
- 退去立ち会いの日時を管理会社と調整
- 立ち会いで確認書にサインするときは、内容をよく確かめる
退去立ち会いのポイント
退去の立ち会いは、管理会社と一緒に部屋の状態を確認する重要な機会です。
- 指摘された箇所をその場で写真に撮る
- 入居時からあった傷はその場で伝える
- 確認書へのサインは慎重に(わからないことはその場で質問する)
退去の前には、まず大家さんや管理会社への解約の連絡が必要です。何日前までに伝えるかは「賃貸の解約連絡は何日前まで?」で解説しています。
7. 困ったときの相談先
| 相談先 | 電話番号 | 特徴 |
|---|---|---|
| 消費者ホットライン | 188 | 最寄りの消費生活センターに繋がる |
| 法テラス | 0570-078374 | 法制度や相談窓口を案内(法テラス・サポートダイヤル)。収入などの条件を満たせば、弁護士・司法書士による無料法律相談も |
| 各都道府県の不動産相談窓口 | 各都道府県による | 不動産会社(宅地建物取引業者)についての相談 |
60万円以下のお金の支払いを求める場合は、簡易裁判所の少額訴訟という手続きもあります。原則として1回の審理で終わらせることを目指す手続きで、最初の期日までに言い分と証拠をすべて出します(裁判所)。申立手数料は請求する金額で決まり、以前は別に必要だった郵便費用は、申立手数料にまとめて納める形になっています。
8. よくある質問(FAQ)
- Q. 賃貸の退去費用の相場はいくら?
- A. 部屋の広さで決まる相場はなく、入居者の責任による傷や汚れの修理費と、契約書の特約で決められたクリーニング代などの合計で決まります。普通に暮らしていてできた汚れや、年月による劣化(壁紙の日焼けなど)は、原状回復の対象外で大家さんの負担です。
- Q. 退去費用に納得できないときはどうする?
- A. まず見積書の内訳を確かめ、貸主側に明細の説明を求めて話し合いましょう(国民生活センター)。解決しないときは、消費者ホットライン「188」で消費生活センターに相談できます。60万円以下のお金の支払いを求める場合は、簡易裁判所の少額訴訟という手続きもあります。
※ 本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、民法(第621条・第622条の2)、国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」(2026年2月17日公表)、裁判所(少額訴訟)、法テラスの公式情報をもとに、2026年10月時点の情報で作成しています。実際の費用負担は契約書の内容や部屋の状態によって変わるため、管理会社や大家さん、相談窓口にご確認ください。