1. 退去時の掃除はどこまでやるべきか
法律上、賃借人(入居者)には「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」があります。つまり、借りた部屋を常識的な範囲で丁寧に使い、退去時にはそれなりにきれいな状態で返すことが求められています。
法律上の義務と実際のライン
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、入居者が負担すべきなのは通常の使用を超える汚れや損傷のみです。
- 掃除が必要なもの:油汚れを放置してこびりついた換気扇、カビが繁殖した浴室、掃除を怠った結果の水垢
- 掃除不要なもの:通常の生活で生じた壁紙の日焼け、家具の設置跡、経年による変色
契約書の特約を確認しよう
多くの賃貸契約には、退去時のハウスクリーニング費用は入居者負担という特約が記載されています。この特約がある場合、どれだけ丁寧に掃除してもクリーニング費用は発生します。
ただし、自分で掃除をしっかりしておくことで、追加のクリーニング費用や原状回復費用を減らせる可能性があります。掃除をしないよりは、した方が確実にお得です。
2. 掃除で敷金が返ってくる可能性
敷金は退去時に返還されるのが法律上の原則です(改正民法第622条の2)。退去前の掃除をしっかり行うことで、敷金の返還額を最大化できます。
掃除の有無で変わる敷金返還額の目安
| 掃除の状態 | 追加費用のリスク | 敷金返還の見込み |
|---|---|---|
| しっかり掃除した | 低い | クリーニング特約分を引いた残額が返還 |
| 普通に掃除した | やや低い | クリーニング費のみで収まることが多い |
| ほとんど掃除しなかった | 高い | 追加の原状回復費を請求される可能性 |
| まったく掃除しなかった | 非常に高い | 敷金を超える請求が来る可能性も |
3. 場所別の掃除方法
退去時に特に重点的に掃除すべき場所と、具体的な掃除方法を解説します。
キッチン
キッチンは油汚れが蓄積しやすく、退去時に最もチェックされる場所の一つです。
コンロ周り
- 五徳は取り外して重曹水(お湯1Lに重曹大さじ3)に30分浸け置き
- コンロの天板は重曹ペースト(重曹に少量の水を混ぜる)を塗って15分放置後、スポンジでこする
- 壁のタイルの油汚れはアルカリ性洗剤をスプレーし、キッチンペーパーで湿布して15分後に拭き取る
- IHの焦げ付きはクリームクレンザーとラップで丸くこする
シンク
- 水垢にはクエン酸スプレー(水200mlにクエン酸小さじ1)をかけてラップで覆い、30分放置
- 排水口はパーツを外し、重曹を振りかけてからクエン酸水をかけると発泡して汚れが浮く
- 蛇口の根元の水垢は古歯ブラシでこする
- 仕上げにメラミンスポンジで磨くとピカピカに
換気扇・レンジフード
換気扇は退去時に見落としがちですが、油汚れがひどいと追加費用を請求されることがあります。
- フィルターとファンを取り外す(取扱説明書を確認)
- 大きなゴミ袋に入れ、40〜50度のお湯と食器用洗剤を入れて1時間浸け置き
- 油汚れがひどい場合はアルカリ性の換気扇専用洗剤を使う
- 古歯ブラシやスポンジでこすり洗いし、水で流して乾燥させる
- レンジフードの内側・外側も洗剤を含んだ布で拭く
お風呂・浴室
浴室はカビと水垢の2大汚れへの対処が重要です。
カビの除去
- ゴムパッキンや壁のカビには塩素系漂白剤(カビキラー等)をスプレーし、ラップで覆って30分〜1時間放置
- 天井のカビはフローリングワイパーにキッチンペーパーを付け、カビ取り剤を染み込ませて拭く(直接スプレーすると垂れて危険)
- 目地の奥のカビは、塩素系漂白剤に片栗粉を混ぜてペースト状にし、塗って放置すると浸透しやすい
水垢の除去
- 鏡のウロコ汚れにはクエン酸パック(キッチンペーパー+ラップ)を1時間
- 蛇口やシャワーヘッドの水垢もクエン酸が効果的
- 浴槽のざらつきはクリームクレンザーとスポンジで
- 排水口の髪の毛やぬめりを除去し、パイプクリーナーで仕上げ
トイレ
- 便器内の黄ばみ・尿石にはサンポールなどの酸性洗剤を回しかけ、30分放置後にブラシでこする
- 便器のフチ裏は見落としやすいので、古歯ブラシで念入りに
- 便座の裏面と接合部分も忘れずに拭く
- タンクの手洗い部分の水垢はクエン酸で除去
- 床と便器の境目は汚れが溜まりやすいのでしっかり拭く
- 換気扇のフィルターにホコリが溜まっていないか確認
壁紙・壁
壁紙の汚れは範囲が広いため、退去費用に大きく影響することがあります。
- 手垢や黒ずみは住居用洗剤を薄めた液で拭く(強くこすると壁紙が傷む)
- タバコのヤニ汚れは重曹水やセスキ炭酸ソーダ水で拭く
- 画鋲の穴は通常使用の範囲なので補修不要(ネジ穴は補修パテで埋めると印象が良い)
- スイッチ周りの黒ずみはメラミンスポンジで軽くこする
- 壁紙がめくれている箇所は壁紙用のりで接着しておく
窓・窓サッシ
- 窓ガラスはガラスクリーナーで拭き、新聞紙で仕上げ拭きするとピカピカに
- 窓サッシのレールは古歯ブラシで砂やホコリをかき出し、水拭き
- 窓のゴムパッキンにカビがあれば塩素系漂白剤で除去
- 網戸は外して水洗い、またはフローリングワイパーで両面を拭く
エアコン
エアコンの掃除は退去時に見落としやすいポイントです。
- フィルターを取り外して水洗い(シャワーで裏面から流す)
- 本体の吹き出し口のホコリを乾いた布か掃除機で除去
- ルーバー(風向きの羽)を拭く
- リモコンの電池を入れたまま返却する
床・フローリング
- 掃除機でホコリを取った後、水拭き(固く絞った雑巾)で仕上げる
- フローリングの黒ずみは住居用洗剤を薄めた液で拭く
- ワックスがはがれて白くなっている場合は、市販のフローリング用ワックスを塗ると良い
- 畳の部屋は畳の目に沿って掃除機をかけ、乾拭きする
4. プロのハウスクリーニングに頼むべきか?
自分で掃除するか、プロに頼むか迷う方も多いでしょう。それぞれのケースを比較します。
プロに頼んだ方がいいケース
- 長年の汚れが蓄積して自分では落とせない
- 水回り(特に浴室のカビ、換気扇の油汚れ)がひどい
- 退去まで時間がなく、掃除に割ける時間が限られている
- 敷金の返還額を最大化したい
- 掃除道具や洗剤を揃えるコストを考えるとプロの方が効率的
自分で掃除すれば十分なケース
- 日頃からこまめに掃除していて汚れが少ない
- 入居期間が短い(1〜2年程度)
- 契約書にクリーニング費用が固定額で明記されている
- 掃除する時間が十分にある
ハウスクリーニングの費用相場
| 間取り | 退去時クリーニング費用 | 作業時間の目安 |
|---|---|---|
| ワンルーム・1K | 20,000〜35,000円 | 2〜3時間 |
| 1LDK・2DK | 30,000〜50,000円 | 3〜5時間 |
| 2LDK・3DK | 45,000〜75,000円 | 5〜7時間 |
| 3LDK以上 | 65,000〜100,000円 | 7〜10時間 |
場所を限定して頼むことも可能です。
| 場所 | 費用の目安 |
|---|---|
| キッチン | 12,000〜20,000円 |
| 換気扇・レンジフード | 10,000〜18,000円 |
| 浴室 | 12,000〜20,000円 |
| トイレ | 6,000〜10,000円 |
| エアコン(1台) | 8,000〜15,000円 |
5. 退去掃除のスケジュール
退去日から逆算して、計画的に掃除を進めましょう。
退去1ヶ月前
- 契約書を読み返し、原状回復の特約・クリーニング費用の条件を確認
- 掃除道具・洗剤の買い出しリストを作成
- 不用品の処分を開始(粗大ゴミの申し込みは2週間前までが多い)
- プロに頼む場合は見積もり・予約を取る
退去2〜3週間前
- 使わない部屋から掃除を開始
- 換気扇・レンジフードの浸け置き洗い
- 浴室のカビ取り(1回で落ちない場合は複数回に分けて)
- 窓・網戸の掃除
- 壁紙の汚れ落とし
退去1週間前
- トイレの徹底掃除
- キッチン(コンロ・シンク)の掃除
- エアコンのフィルター掃除
- 各部屋の床掃除
- クローゼット・収納内部の拭き掃除
退去前日〜当日
- 荷物搬出後に全体の仕上げ掃除
- 全部屋の掃除機がけと水拭き
- 照明器具のホコリ取り
- 玄関・靴箱の掃除
- ベランダの掃き掃除
- 部屋全体の写真・動画撮影(日付入りで記録)
6. 掃除に必要な道具リスト
- 掃除機
- 雑巾・マイクロファイバークロス(5枚以上)
- メラミンスポンジ(激落ちくん等)
- 古歯ブラシ(細かい部分用に3〜4本)
- スポンジ(キッチン用・浴室用)
- バケツ
- ゴム手袋
- 重曹(油汚れ・手垢に)
- クエン酸(水垢・カルキに)
- セスキ炭酸ソーダ(頑固な油汚れに)
- 塩素系漂白剤・カビ取り剤(カビキラー等)
- 住居用洗剤(マイペット等)
- ガラスクリーナー
- トイレ用酸性洗剤(サンポール等)
- クリームクレンザー(ジフ等)
- パイプクリーナー(排水口用)
- キッチンペーパー・ラップ(湿布用)
- フローリングワイパー
- ゴミ袋(大量に必要)
7. 退去立ち会いでチェックされるポイント
退去立ち会いでは、管理会社や大家が部屋の状態を確認します。特にチェックされるポイントを知っておくことで、重点的に掃除すべき箇所がわかります。
重点的にチェックされる箇所
| チェック箇所 | 確認内容 | 入居者に請求される可能性 |
|---|---|---|
| 壁・天井 | 傷、穴、タバコのヤニ、カビ | 大きな穴やヤニ汚れは請求対象 |
| 床・フローリング | 傷、へこみ、シミ、変色 | 物を落とした傷やペットの傷は請求対象 |
| キッチン | 油汚れ、焦げ付き、シンクの状態 | 放置した汚れは請求対象 |
| 浴室 | カビ、水垢、排水口の詰まり | 掃除を怠った結果のカビは請求対象 |
| トイレ | 尿石、黄ばみ、水垢 | 掃除を怠った汚れは請求対象 |
| 窓・サッシ | ガラスの破損、サッシの汚れ | 破損は請求対象 |
| 収納・クローゼット | 棚板の汚れ、カビ、臭い | カビは請求対象になることも |
| ベランダ | 汚れ、排水溝の詰まり | 通常は大きな問題にならない |
退去立ち会い時のポイント
- 入居前からあった傷や汚れは入居時の写真を見せて説明する
- 指摘された箇所はすべて自分でも写真に撮って記録する
- 見積書にはその場でサインしない(「持ち帰って確認します」と伝える)
- 立ち会いにはできればもう一人同行してもらう
- 管理会社の担当者の名前と連絡先を控えておく
掃除後に写真を撮っておこう
退去前に掃除を済ませたら、部屋全体と各箇所の写真を撮影しておきましょう。後から「掃除していなかった」と主張された場合の証拠になります。
- 各部屋の全体写真(4方向から)
- キッチン(コンロ、シンク、換気扇のアップ)
- 浴室(浴槽、壁、天井、排水口)
- トイレ(便器内、床、タンク)
- 窓、サッシ、ベランダ
- 収納・クローゼットの内部
- 日付が記録される設定で撮影する
※ 本記事の情報は2026年9月時点のものです。退去時の掃除義務や費用負担については、契約書の内容が優先されます。詳細は管理会社や不動産会社にご確認ください。