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1. 退去時の掃除は「通常の清掃」まで
国土交通省のガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」としています。借りたときの状態に戻すことではありません。民法第621条でも、通常の使用でできた損耗や経年変化は、借主が元に戻す対象から除かれています。
一方で、借主は借りた部屋を「善良な管理者の注意」をもって使う義務があります(民法第400条)。ガイドラインのQ&Aでは、そのため借主は日頃の通常の清掃や退去時の清掃に気をつける必要があるとしています。ガイドラインが示す「通常の清掃」は次のとおりです。
- ゴミの撤去
- 掃き掃除
- 拭き掃除
- 水回りの清掃
- 換気扇やレンジ回りの油汚れの除去
2. 借主の負担になりやすい汚れ・貸主の負担とされるもの
ガイドラインでは、具体的な例を挙げて、どちらの負担とするのが妥当かの考え方を示しています。掃除に関係するものをまとめると、次のとおりです。
| 場所 | 貸主の負担とされる例 | 借主の負担になりやすい例 |
|---|---|---|
| 部屋全体 | 専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃をしている場合) | 通常の清掃をしていない場合の清掃費用 |
| キッチン | 消毒 | ガスコンロ置き場・換気扇などの油汚れ、すす(清掃・手入れを怠った場合) |
| 浴室・トイレ・洗面台 | トイレの消毒 | 水垢、カビなど(清掃・手入れを怠った場合) |
| 壁 | 画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)、ポスターなどを貼った跡(日照などによる変色) | 重い物をかけるためのくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度)、タバコのヤニ・臭い、結露を放置して広がったカビ・シミ |
| エアコン | 内部洗浄(喫煙などによる臭いが付いていない場合) | ― |
結露はガイドラインでも「建物の構造上の問題であることが多い」とされています。借主の負担になりやすいのは、結露が出ているのに貸主に知らせず、拭き取るなどの手入れもしないで、壁などを傷めた場合です。
どれも一般的な考え方で、実際の負担は契約書の内容や部屋の状態によって変わります。費用の考え方や敷金の精算のルールは「賃貸の退去費用ガイド」で解説しています。
3. 契約書のクリーニング特約を確認する
契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主の負担」といった特約が書かれていることがあります。ガイドラインのQ&Aでは、クリーニング特約が有効かどうかは、次のような点から判断されるとしています。
- 借主が負担する内容・範囲が示されているか
- 本来は借主の負担にならない通常の損耗の分も負担させる趣旨と、その範囲が、契約書に書かれているか、口頭で説明されているか
- 費用として妥当か
国民生活センターは、契約する前に、ハウスクリーニング費用をどちらが負担するかなど、退去するときの費用負担を必ず確認するよう呼びかけています。入居時と退去時の両方でエアコンクリーニング代を請求されたという相談事例も紹介されています。退去が近づいたら、まず契約書と重要事項説明書を読み返しましょう。
4. 場所別の掃除のしかた
ガイドラインの「通常の清掃」と、借主の負担になりやすい汚れをもとに、場所ごとに見ておきたいところをまとめます。洗剤は、製品の表示(使える場所・使い方・注意)に従って使ってください。
キッチン
- コンロとコンロ置き場のまわりの油汚れ、すすを落とす
- 換気扇・レンジフードの油汚れを落とす(部品の外し方は取扱説明書で確かめ、外せない部品は無理に外さない)
- シンクと排水口の汚れ、ぬめりを落とす
- 冷蔵庫や食器棚をどけたあとの床のほこりを取る
浴室・トイレ・洗面台
- 浴槽・壁・床・鏡・蛇口の水垢、カビを落とす
- 排水口の髪の毛やゴミを取る
- 便器・便座・床を拭く
- 洗面台のボウルと蛇口の水垢を落とす
- カビ取りに塩素系の洗浄剤を使うときは、次の「まぜるな危険」の注意を守る
部屋(床・壁・窓・収納)
- 床のゴミやほこりを、掃除機や掃き掃除で取ってから拭く
- 窓とサッシのレール、網戸のほこりを取る
- 結露でできた窓まわりのカビを拭き取る
- 押し入れ・クローゼットの中の物を残さず出して、中を拭く
- 壁の画鋲の穴は通常の損耗とされています。くぎ穴やネジ穴を自分で埋めたり直したりする前に、管理会社や大家さんに相談しましょう
エアコン
ガイドラインでは、エアコンの内部洗浄は、喫煙などによる臭いが付いていない限り、通常の生活で必ず行うとまでは言えず、借主の管理の範囲を超えているので貸主の負担とするのが妥当とされています。借主は、取扱説明書に沿ってフィルターを掃除し、本体の表面や吹き出し口のほこりを拭いておきましょう。
玄関・ベランダ
- 玄関と靴箱の砂やほこりを掃く
- ベランダのゴミや落ち葉を片付け、排水口のつまりを取る
- 不用品やゴミを部屋に残さない(ゴミの撤去は「通常の清掃」に入っています)。不用品の処分のしかたは「引っ越しの不用品処分」で解説しています
5. 洗剤を使うときの注意(まぜるな危険)
国民生活センターは2026年3月、カビ取り剤などの塩素系洗浄剤を、酸性の洗浄剤などと一緒に使うと有害な塩素ガスが出るとして注意を呼びかけています。テストでは、次亜塩素酸塩を含む塩素系洗浄剤を酸やエタノールなどと混ぜると、塩素ガスが発生しました。浴室で塩素系洗浄剤とクエン酸を同時に使い、1時間後に吐いて救急要請した事例も寄せられています。
- 塩素系洗浄剤は、必ず単独で使う
- 使うときは換気を十分にし、保護具を着ける
- 排水トラップには前に使った洗浄剤が残っていることがある。使ったあとは十分に水を流し、ほかの洗浄剤を続けて使わない
- 塩素ガスが出たらその場を離れる。吸い込んでしまったら医師に相談する
退去前は、短い期間にいろいろな場所をまとめて掃除するので、洗剤を続けて使いがちです。浴室やトイレでは、使う洗剤を1つずつにして、水で十分に流してから次の作業に移りましょう。
6. 退去掃除の進め方(引越ナビの目安)
下は、退去日から逆算して掃除を進めるときの引越ナビの目安です。部屋の広さや汚れの具合、引っ越しの日程に合わせて調整してください。
- 退去の1か月前ごろ:契約書の原状回復・クリーニングの特約を読み返す。粗大ごみなど不用品の処分を始める(収集の申し込みが必要な自治体もある)。ハウスクリーニングを頼むなら見積もりを取る
- 2〜3週間前:ふだん使わない場所から始める(換気扇・レンジフード、浴室のカビ、窓・網戸)
- 1週間前:キッチン・トイレ・洗面台、エアコンのフィルター
- 荷物を出したあと〜退去日:床の掃き掃除と拭き掃除、収納の中、玄関・ベランダ。ゴミを残さず持ち出し、部屋の写真を撮る
荷物があるうちは床や収納の中まで掃除できないので、荷物を出したあとに仕上げの掃除をする時間を取っておきましょう。引っ越し当日の動き方は「引っ越し当日の流れ」で解説しています。
用意しておくもの
- 掃除機、ほうき・ちりとり
- 雑巾・掃除用のクロス、スポンジ、古い歯ブラシなどのブラシ
- ゴム手袋
- キッチン・浴室・トイレなど、使う場所に合った洗剤(製品の表示で確かめる)
- ゴミ袋
7. 退去立ち会いで気をつけること
ガイドラインのQ&Aでは、退去時はもちろん入居時にも、貸主と借主の双方が立ち会って部屋の状況を確認し、チェックリストを使ったり写真を撮ったりしておくことが、トラブルを避けるために有効だとしています。国民生活センターも、退去するときは入居時と同じように、できる限り貸主側と一緒に、写真やメモで記録を残しながら部屋を確認するよう案内しています。
- 入居時に撮った写真やチェックリストがあれば、見られるようにしておく
- 指摘された場所は、自分でも写真を撮ってメモする
- 確認書へのサインは慎重にする。わからないことは、その場で質問する
- 納得できない請求は、費用の明細などの説明を求めて話し合う(国民生活センター)
- それでも解決しないときは、消費者ホットライン「188」で、近くの消費生活センターに相談できる
掃除のあとに写真を撮っておく
掃除が終わったら、部屋の状態を写真で残しておきましょう。入居時と退去時の状態がわかる記録があると、損耗が入居中にできたものかどうかがわかりやすくなります。
- 各部屋の全体(いくつかの方向から)
- キッチン(コンロ・シンク・換気扇)
- 浴室・トイレ・洗面台
- 窓・サッシ・ベランダ
- 押し入れ・クローゼットの中
- 壁や床の傷・汚れが気になるところのアップ
8. よくある質問(FAQ)
- Q. 退去時の掃除はどこまでやればいい?
- A. 国土交通省のガイドラインは、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回りの清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去を「通常の清掃」としています。借主がこれをしていれば、専門業者による部屋全体のハウスクリーニングは貸主の負担とするのが妥当とされています。
- Q. 掃除をしないで退去するとどうなる?
- A. ガイドラインでは、通常の清掃をしていない場合は、その場所または部屋全体の清掃費用に当たる分を借主の負担としています。清掃や手入れを怠ってできた油汚れや水垢・カビは、借主の善管注意義務違反と判断されることが多いと考えられています。
- Q. 契約書にクリーニング特約があったら、掃除しても費用はかかる?
- A. 特約が有効なら、その内容に沿って費用がかかります。ただし、特約は必ず有効とは限らず、負担する内容・範囲が示されているか、説明があったか、費用が妥当かなどから判断されます(ガイドラインのQ&A)。納得できないときは、消費者ホットライン「188」で相談できます。
- Q. カビ取り剤とクエン酸を一緒に使ってもいい?
- A. 一緒に使ってはいけません。塩素系洗浄剤を酸性の洗浄剤などと一緒に使うと、有害な塩素ガスが出ます。塩素系洗浄剤は単独で使い、使ったあとは十分に水を流して、ほかの洗浄剤を続けて使わないようにしましょう(国民生活センター)。
- Q. エアコンの中まで掃除する必要はある?
- A. ガイドラインでは、エアコンの内部洗浄は、喫煙などによる臭いが付いていない限り、貸主の負担とするのが妥当とされています。借主は、フィルターなど、ふだんの手入れの範囲を掃除しておきましょう。
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※ 本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」(2026年2月17日公表)・「住宅用塩素系洗浄剤の使い方-まぜるな危険!浴室などで事故が発生しています-」(2026年3月18日公表)、民法第400条・第621条をもとに、2026年10月時点の情報で作成しています。実際の費用負担は契約書の内容や部屋の状態によって変わるため、管理会社や大家さんにご確認ください。